失敗や挫折を恐れるな!(『心ひとつで幸せになれる本』〜斉藤茂太:著〜ぶんか社文庫)

言いたい事は解る。一々そんな事で落ち込む必要は無いのかも知れない。では、どうやって其れを乗り越えてゆけば良いのか。

 大方の結論は、こうである。「恥を恐れず、全力で立ち向かう勇気を持て!」。成程。それも解らないではない。しかし、其れが出来ないから厄介なのである。

 よく、朝礼で社訓や社是を大声で唱和する光景を目にする。普通の何気ない「おはようございます。」とか「有難うございます。」とかなら、まだ解る。其れだとしても、態々大声を上げる必要があるとは思えず、相手に其の気持ちが伝わる程度の声と仕草で充分な筈である。況や、尤もらしい美辞麗句を並べ立てた、大袈裟で羞恥心の微塵も感じられないような胡散臭いモットーみたいな訓示をやである。

 若い頃、自衛隊の研修所で2週間の集合研修を受けた事が有る。あのような現場では、その場その場の判断が命に関わってくる為、逡巡など許されるべくも無く、ミスなど持っての他なので、絶対的な命令系統と規律が最優先され、そうした意味からも大袈裟な表現と決意に満ち溢れた態度が必要なのだと思う。

 そう謂う訳では無いにも係らず、馬鹿の一つ覚えみたいに大声で唱和するなど、狂気の沙汰としか思えない。何も、大声である必要は無い。其れこそ馬鹿げている。其の言葉の意味を噛み締めて、その日一日を誠心誠意過ごす為に唱えるだけで充分な筈である。

 また、酒宴で応援団みたいな事を強制する、狂気に走った上司もよく目にするが、何をしたいのかさっぱり意味が解らない。「馬鹿に成れ!」「恥を晒せ!」と言っているとしか思えない。言われた当人はそんな事が出来ないから、「嫌ですぅ」と言っているにも係らず、終には上司命令だと抜かす始末である。

 対人恐怖症とか閉所恐怖症とか謂った、単一恐怖症の事なんかを、人の上に立つ者は知っておくべきである。その気が無いのなら、人の上に立つべきではないし、それが嫌であれば、その組織に、その様な障害を持つ者を置くべきではない。

 世の中には色々な人間が居ると謂っておきながら、実の所、全く解っていないお気楽な輩が大手を振っている。百歩譲って、知らないのであるならば、相手の気持ちを尊重する度量位持って欲しい。他でもない本人自信が、その事で一番苦しんでいる事を、喘ぎ踠き戦い貫いて葛藤している事を、せめて理解して欲しい。